レッスンの前、皆が集まりだしたとき、中林さんが生田の耳元でそっとささやいた。
「あの、青木さんのこと、知っていますか?」
「なに?どうしたの」
「それがちょっと用事があって青木さんの自宅に電話をしたんですよ。
そしたらご主人が、いま、いないんですよ。
病院に入院しています、というんですよ」
「とつぜん、頭が突然痛い!」と言い出して急いで近くの病院まで行ったが、もっと大きな病院を紹介され急いでそちらに行った、というのだ。
「えっ、どうしたの?」生田は聞き返した。
「ご主人がいうには、歩行困難、になった、っていうんです」
中林さんは「いやー生田さんなら知っているかと思って」
それ以上のことは、わからない。
同じサークルに1年ぐらいいたのだが、仕事の関係で、来れないので辞める、とのことだった。
それから、ほどなくパーティなどで元気な姿を見かけていただけに、ちょっと驚きだった。
メンバーの中では、まだ若いほうで、伸び盛り、生意気盛りといった感じの人であった。
かなり上手な人が集まっている別のサークルに移ったのだ、としばらくしてわかった。
でも、それは仕方がないことで、よくあることでもあるのだった。
そんな彼女が「歩行困難」とは。ダンスの好きな女性には残酷すぎる話である。
それから、3ヶ月、青木さんについての新しい情報は聞かれない。
リハビリなどたいへんだろうし、時間がかかるのかも知れないな、
と生田はひとりごちるのだった。
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